カワウソ調査 番外編 ラッコに会いに ―2026年5月 北海道 道東―

今回の調査は、番外編として国内で確実に生息が確認されているカワウソの一種である「ラッコ(Sea Otter)」を観察するために北海道に向かいました。

まず、「ラッコ」の基礎知識を。「ラッコ」とはアイヌ語の「rakko」からきており漢字表記は「海獺」なので「Sea Otter」そのものです。
ラッコには地理的な分布によって異なる3つの亜種が存在します。

①Enhydra lutris lutrisはアジア系の種類で、千島列島からカムチャッカ半島沖のコマンドルスキー諸島にかけて分布しています。
②E. l. kenyoniはアラスカのアリューシャン列島からオレゴンにかけて分布しています。
③E. l. nereisはカリフォルニア中南部に生息しています。3種の中で北海道に生息するE.l.lutris が一番大きい種類です。

世界のラッコの分布図(IUCNホームページより引用)

ラッコは海の生活に適応した多くの特徴があります。鼻孔や小さな耳は閉じることが可能であり、泳ぎの推進力を得るために後足は長く、広く平たい大きな足ひれがあります。後足の5番目の指が最も長くなっており、仰向けで泳ぐのに適しておりますが、陸上での歩行は困難です。それに対して、前足は短く、引っ込める爪があり、手のひらには滑りやすい獲物を掴むための硬いパッドがあります。尾は比較的短く、太く、やや平らで筋肉質です。骨は、浮力を減らすために骨密度がほかの動物に比べ高くなっています。

足ひれが非常に大きい

ほかの海獣類に比較して皮下脂肪が低く、その反面被毛の密度が動物界トップクラスに高密になっております。「毛づくろい」によってその毛の間に空気を送り込み寒さ等から身を守っております。代謝率も陸上哺乳類の2~3倍で毎日体重の25~38%の食べ物を摂取しなければなりません。それ故、寒さには非常に強い動物ですが、暑さには弱いです。
また、ラッコの大きな特徴として真水を必要としないことです。大きな腎臓が海水を真水にろ過することが可能なため陸上に上がる必要がありません。

産子数は通常1頭で6~8か月の間、母親は子育てをします。授乳するmilkも脂肪分が非常に高くイタチ類よりも海獣類に近い成分となっております。幼獣の死亡率は高く1年生存率は25%ほどしかありません。ただ、母親の育児経験などによりその確率は大きく異なります。

●はじめに
本調査旅行は番外編として国内で確実に生息が確認されているカワウソの一種である「ラッコ(Sea Otter)」を観察してきました。
2026年5月4日(月)~6日(水)の二泊三日で行いました。


●調査旅行の概要
期間:2026年5月4日(月)~6日(水)
調査地:北海道 道東
参加者:カワウソ研究会 共同代表:前田直樹と妻、井倉将都(カワウソ研究会準会員)の3人
行程:5月4日、5日 釧路空港~釧路川河口~チョロベツ川~尻羽岬~厚岸~別海厚岸線~散布~霧多布~湯沸岬(霧多布岬)
   5月6日 浜中町(霧多布)~落石岬~根室~納沙布岬

1日目 5/4(月)

釧路空港12:55着

今回は妻とカワウソ研究会準会員である井倉氏との2人が同行します。
気温は10℃前後と肌寒くこの日旭川では雪が降り、雪渓がみられるところもありました。

レンタカーで釧路市を南下し、釧路川河口から県道142号を海岸沿いに車で東に向かいます。今回の目的の一つはラッコの観察ですが、一般情報によると納沙布岬から霧多布岬の海岸沿いでしかラッコは観察されていないためそれ以西の地域での生息状況を確認することが第一の目的です。

釧路川から東にチョロベツ川を越えてところどころ海岸を観察するもこの日は波が高く海も濁り鳥以外の生物は確認できません。

釧路の海岸

ただ、エゾシカは森林部だけでなく市街地でも多くFREE PAPERの「ひがし北海道エンジョイmap」によるとこの釧路周囲でのエゾシカ衝突事故が非常に多くH30~R4年までに1カ所で事故が80件以上の箇所が何か所もあります。

エゾジカだけでなくタンチョウズルも

ヒヤリハット マップ

「ヒヤリハットマップ」は、道東の道の駅が作成しているフリーペーパーで「ひがし北海道エンジョイmap」の中に掲載しています。

また、釧路湿原近くには巨大なメガソーラー施設がところどころあり、自然の中に異質な風景となっています。 

メガソーラー

チョロベツ川から東に20㎞程のところに尻羽岬(しりぱみさき)があります。ここはラッコの生息地の霧多布岬から直線距離で西に30㎞の位置する海に大きく突き出た岬になります。この地が一つのポイントになるかと考えていました。ここから東はなだらかな海岸線を形成する厚岸湾となり生息地としては適しておりません。

この先が尻羽岬

そのためこの尻羽岬付近に生息地を広げているのではと予想していました。しかし、東に車を進めるにつれて霧が発生し始め尾羽岬に続く駐車場に着いた頃は一面の霧の中となりました。また尾羽岬までの海岸線も高さが30m以上あり打ち付ける波も激しく海面に生物は確認できませんでした。

この先が岬ですが霧で危険のため中止

その後の聞き取りでこの尾羽岬ではラッコの目撃例はあるとのことですが、繁殖は確認されていないとのことでした。

途中の海岸下

その後、厚岸湾を右手に見て回り霧多布湿原手前にある今夜の宿「宿坊 樺のん」に18:00到着。とても親切なご夫婦で経営されている宿で、その夜は一番人気の「花咲ガニと海鮮メニュー」に舌鼓を打ちました。

宿坊樺のん全景

一人1杯の花咲ガニが付いてきます

2日目

4:30起床。

甲高い音で目が覚めました。外を見ると先の丘に数多くのエゾシカが群れており彼らが発する鳴き声なのです。

宿坊前の高原には多くのエゾジカの群れ

朝食前に宿から車で約30分ほどの場所の今回の目的地である霧多布岬(正式名称:湯沸岬(とうふつみさき))に向かいました。霧は晴れていましたが、気温が低く真冬並みの寒さでした。

霧多布岬の全容

霧多布岬は、浜中町の町中を抜けて約2㎞程のところに位置しており、観光スポットになっております。ただ早朝のため観光客はおらず、オオワシが出迎えてくれました。

オオワシ

この岬は、駐車場から遊歩道が伸びており突端までの往復約30分の距離となります。

波が高く海面が波打っていましたが1頭のラッコがこの荒波の中プカプカと漂っていました。ラッコは、海が荒れていてもどこかに避難することなく沖で漂っているとのことです。

荒波の中漂うラッコ

そのラッコは波間に消え隠れしてどこかへ行ってしまったため早朝観察を終了としました。霧多布は、広大な湿原があり「厚岸霧多布昆布森国定公園」の中心となっております。宿坊に帰る前にこの湿原を見渡せる展望台から望みましたが、春になると多くの花が咲き誇るとのことでしたが、5月といえど花は全く咲いていませんでした。

朝食を済ませ8時に再び霧多布岬にやってきました。遊歩道からすぐの東海岸で直下(標高40~50m)の海面に2匹のラッコがプカプカと漂っていました。

この時間には7~8名の観光客がいましたが、ラッコたちは全くこちらを気にすることもなく毛づくろいをしております。よく見ると顔の白さなどが違い、個体識別ができているとのことです。やはりカワウソの1種であるため体の向きや波の動きに合わせて扁平な尾を起用に使ってコントロールしていました。後肢は足ひれが大きくこの大海原でも生きていける身体的な大きな特徴です。

観察していると岸の方からもう1頭近づいてきて3頭でじゃれ合いながら波間に浮かんでいました。

岬の突端にいくと2頭の親子のラッコが波にもまれながらも積むまじく毛づくろいをしておりました。この光景をめにして本当にここはラッコの住みやすい場所であることを実感し、改めてこの環境を後世に伝えなければと心新たにしました。

子供を抱える母ラッコ

「エトピリカ基金」の片岡氏にお話を伺うと現在、回遊している雄を除き定着しているメスは7頭とのことです。毎年、春に出産が確認されこれまで25頭が生まれましたが残っているのはこの7頭でそのうち4頭は同じ母親から生まれたとのことです。その母親の子供の生存率の高さは子供への愛情のかけ方の差と推測されています。だとただその母親のビッグママも昨年シャチの餌食になってしまって今後の繁殖率の低下が懸念されるそうです。

また、尻羽岬以西での目撃例はあるものの繁殖は確認されていないとのことです。もともと北方4島から流れ着いたラッコたちが根室の南沖に浮かぶ「モユルリ島」近辺で繁殖し霧多布岬に居着いたとされています。現在では、北海道近辺に生息するラッコの数は50頭ほどと推測されています。

子育て上手な母ラッコAの「ビッグママ」の10年間の記録を「ラッコ~Aお母さんファミリーと仲間たちの10年」として片岡氏が出版されました。大変ボリュームがあり、非常に美しく、切ない写真集となっております。

ご購入は、NPO法人エトピリカ基金まで

ラッコ観察ルール看板

この霧多布岬では、海が時化でなければ80%の確率でラッコたちを目撃できるそうですが以前ドローンにより岸に近づかなった時期があるそうです。そのため浜中町観光協会では以下の鑑賞ルールを規定しております。

Warning

▼ラッコ鑑賞時のルール
1. 船舶・カヌー等でラッコに近づかない
2. えさを与えない
3. 大声や騒音を出さない
4. 水面および水中での観察・撮影を行わない
5. 湯沸岬・アゼチの岬周辺でドローンを飛行させない

実際、岬を離れる時刻には多くの観光客が訪れており、中には犬を連れている方もいました。簡単に幻であった「ラッコ」が目撃できてしまうため今後の観光客の野生動物への配慮を考えて来ていただきたいと思います。

3日目 

3日目は、朝から根室の納沙布岬まで足を延ばしました。ここに歯舞群島から渡ってきたラッコが漂着して道東のラッコのコロニーを形成しております。この岬は霧多布岬よりも岸の高さが低く観光客も多いため岸近くからの目撃は難しいかもしれません。実際、最近の目撃は5日前とのことで「今日は見ないな~」と売店の方の話だったのでアザラシの写真でもとスマホで撮影だけはしました。後日、アザラシかと思っていた動物が、拡大してみると「ラッコ」でした。

アザラシと思いきや


以上で今回の「ラッコ」観察ツアーは終了となりますが、5月でも朝晩の気温は一桁台で、ダウンが必要な寒さでした。またヒグマの目撃例が毎日ニュースになっていたため「クマップ」をにらみながらの移動でした。ただ、道東の自然の大きさは本州の比ではなく「シマフクロウ」や「エゾクロテン」「エゾモモンガ」も見てみたいと思っていましたが、準備や装備なく出会うことはできませんでした。しかし、春の訪れを告げる「ミズバショウ」の群生や牧草地でついばむ「タンチョウヅル」の優美な姿をみられることができ、北海道ならではの雄大さを堪能することができました。

森のミズバショウ

釧路空港のモニュメント

しかし、「ラッコ」が道東に戻ってきて繁殖していると安心していましたが、現状は全く安心できる状況ではなく、いつ霧多布から、日本からいなくなってもおかしくはありません。現在、「ラッコ」の飼育個体は「鳥羽水族館」の2体だけです。それも老齢で今後国内に導入される見込みはありません。本物のラッコを観察できるのは道東だけになる日も近いと思われます。この希少な動物をどのように見守り保護していくかは国レベルで対策を考えるべきだと改めて考えさせられました。

追記:浜中町を行き来するとき、町中で一匹のキタキツネに会いました。元気なくとぼとぼと歩いていました。全身が薄毛で瘦せた個体です。本州のタヌキで問題になっている「ヒゼンダニ」による「疥癬症」と思われます。ここまで汚染されているのかと危険性を感じました。

【取材協力】
北海道浜中町観光協会:浜中町
エトピリカ基金:NPO法人 エトピリカ基金
宿坊 樺のん 

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