現在のユーラシアカワウソの世界状況

文責 前田直樹

ユーラシアカワウソは、カワウソ科の中で地球上で最も広く分布する種類です。
しかし、その分布状況を把握する資料はほとんどありません。IOSF(The International Otter Survival Fund)のPaul Yoxon と Ben Yoxonが2019年に各国のカワウソの研究者などにアンケートを送付して、その回答から生息報告をまとめて発表しました。
「EURASIAN OTTER (Lutra lutra): A REVIEW OF THE CURRENT WORLD STATU」review of current world status

現在のユーラシアカワウソの世界の生息状況がある程度把握できるためにここに紹介させていただきます。

世界の生息状況

過去にユーラシアカワウソの分布報告のある77か国を対象に研究者にアンケートを取りました。

【地域ごとの評価】
ヨーロッパ

汚染のために多くの地域で姿を消したユーラシアカワウソも環境条件の改善等の地域努力により、回復してきております。オランダやスイスで再導入プログラムが実施され、オランダでは繁殖個体が増えています。イギリスでも増えてはいますが、10,000頭未満と考えられています。

アフリカ

北アフリカに生息していると考えられていますが、情報がほとんどありません。ただし、チュニジアでは生息数が増えていると考えられています。

アジア

アジア広くに分布していたユーラシアカワウソも多くの地域での生息状況は不明です。バングラディッシュ、インドネシア、カンボジア、ベトナムを含む多くの国で1990年代初めから生息の記録がありません。マレーシアは、これまでに生息していたかも不明です。スリランカでは2018年に生息回復活動の後に撮影に成功しました。ラオスでも2018年に痕跡が見つかりました。日本では、2017年に38年ぶりにカワウソがトラップカメラにて撮影され、生息確認されました。その報告のみのため「その他」の項目になっています。中東のイスラエル、ヨルダン、レバノン、イラク、イランで報告されていますが、生息数数は少ないと考えられています。

総評

ユーラシアカワウソは、ヨーロッパでは痕跡状況などから増加傾向にあると考えられています。しかし、クロアチアやジョージアでは生息地の破壊や水質汚染の脅威にさらされています。リトアニアでは、ビーバートラップで多くのカワウソが死亡しています。また多くの地域で漁業との対立が増加しており、ルーマニア、ノルウェー、では問題が表面化してきています。オーストリアでは、40頭の駆除許可が下りました。フィンランドでは、10~15頭の駆除が合法的に許可されています。報告結果から全世界のユーラシアカワウソは26%の国で増加の傾向が見られます。しかし、73%の国では減少傾向が見られます。生息数は主に糞の痕跡の二次的証拠の調査に基づいています。標準的な調査報告では、10kmのグリッド上にマークしますが、オスの行動範囲は40kmになるため4地点で糞が確認されると1頭のオスが4頭にカウントされてしまいます。また、調査能力の差によりミンクの痕跡をカワウソとカウントしている場合もあります。さらに、アジアにはユーラシアカワウソ、コツメカワウソ、ビロードカワウソ、スマトラカワウソ、ラッコの5種類が存在します。そのなかでラッコ以外は、カワウソとして記録されていることが多くあります。そして、各国の地理的状況を確認するのは非常に難しく、ロシアのようにヨーロッパからアジアにまたがる非常に大きな国では、カワウソの生息が健全であるこの国でも全体では減少している可能性があります。DNA分析による識別調査が、現在利用可能な最も正確な方法ではあります。しかし、この方法による研究はごくわずかです。

(訳者のまとめ)
現在、ヨーロッパでは、ユーラシアカワウソは各国の保護活動などにより増加傾向が見られ、一時絶滅した地域でも回帰した場所もあります。しかしその一方では、増加したカワウソによる漁業被害のために頭数制限のため駆除しようとする動きがあります。しかし、生息頭数を統計学的・遺伝子的調査によって割り出した報告数はわずかです。調査方法や調査レベル、研究者数により各国によってばらつきがあります。そのため増加傾向にあるとの安易な判断で頭数制限を実施する国々にこの論文は警鐘を鳴らしています。アジアにおいては、韓国以外で増加している報告はありません。過去に生息が確認されていた国も絶滅している可能性も多くあります。学術的調査が継続的にされていないためにその実態は定かではありません。