対馬 現地調査報告 ―2023年11月長崎県対馬市―

カワウソ調査報告 概要
調査期間
2023年11月22日~23日
調査場所
長崎県対馬
報告者:前田直樹 同行者他1名

今年2回目の対馬の調査をしてきました。
7月に予定していた調査が台風によって中止になりましたが、今回は終日快晴に恵まれました。

【1日目】

空港の入り口では、アニメのガメラの新作は対馬に上陸とのことで熊谷氏のカワウソとコラボしていました。

対馬ヤマネコ空港 到着口
荷物ターミナルのカワウソフィギュアとガメラ
釣り船で目的の島まで

今回は、設置しているトレイルカメラのバッテリー及びSDカードの交換が主な予定の為1泊2日の予定でした。しかし、直前に情報があり無人島に渡り調査することとなりました。対馬には102の無人島が存在します。
その中の一つの島でカワウソの足跡が見つかったとの情報でした。

痕跡情報のあった目的の島が目前

その島は、本島から船で約15分ほどで着くほどと近いのですが、船着き場がなくまた岸近くは遠浅の為、良い場所に上陸がなかなかできませんでした。

足跡のあった浜まで岸壁を探索
探索はつづく

何とか上陸はできましたが、目的の浜までは1㎞程あり、痕跡を探しながら目的地を目指しました。
しかし、ツシマテンの糞以外は見つかりませんでした。

ツシマテンの糞、種子などが入っています。
浜は砂丘がつながっていますが、流れ着いたゴミが…

目的の浜は、非常にゴミが多く以前は海水浴場として夏は人で賑わっていたとのことでしたが最近は整備もされていないようです。
しかし、浜から続く砂丘は見ごたえがあり4~5階までの高さがあります。
この浜で足跡が見つかったとのことです。

お~怪しい足跡が!
浜から砂丘まで足跡は続いていました

実際、多くの足跡があり、浜辺の漂着物を漁りに来た「ツシマテン」や「ツシマジカ」の足跡がほとんどでしたが、
なんと、怪しい足跡が一筋……ありました!

きれいな足跡のアップ
参考:韓国で採取したカワウソの足跡

5本指の足跡です。まだ新しい足跡で今朝付いたものでしょうか。
対馬において5本指の足跡を残す動物は、「ツシマテン」と「カワウソ」しかいません。
サイズが横60㎜、縦が80㎜の右前足の足跡です。
非常にカワウソに近い足跡です!
ちなみに右の写真は、韓国のユーラシアカワウソの足跡ですが肉球の付き方、特に手根球の位置などは全く同じです。
カワウソの足跡と判断して間違いないでしょう。

右前足と右後ろ足の交差の足痕
砂丘にはテンやシカの足跡がいくつもついていました

この足跡は砂丘の上まで続いていました。カワウソがこの島を利用しているのでしょうか。

遠浅のエメラルドグリーンの海が広がっています

砂丘の頂上から見た景色ですが、この美しい海と砂丘に人が近づかない現在は、カワウソやテンの楽園になっているのかもしれません。シカなどが生息するのであれば真水も摂取することができるのでしょう。

足跡の計測と写真撮影
歯科用の石膏で型取り

足跡は計測後、石膏にて型取りしました。
この砂丘の砂は、やや粗いのですが湿り気があり、あまり型崩れすることなく型取りができました。

浅茅湾

午後にはその無人島を離れ浅茅湾の探索をしました。この浅茅湾は、上島と下島を隔てる入り江になっており、島々が点在する観光名所にもなっています。その浅茅湾にもカワウソの目撃例があるため今回はいくつかの海岸や堤防を調査しました。

海辺に不自然な砂の盛り上がりが
砂の中には糞が…

ある堤防で砂の盛り上がりを発見しました。カワウソは、サンドキャッスルといわれる砂を寄せ集めた砂山を作りそこにサインポストを残したりします。発情期など特に縄張りを主張する時期に多く見られます。

カワウソのサンドキャッスルかと色めきましたが、砂山の中から出てきたのは猫の糞でした。
紛らわしい…。

島の西海岸を探索
海からの水門を狙ったカメラ
ツシマヤマネコも利用する田園の水路も調査

この日は、そのあと何か所かポイントを見て回り、トレイルカメラも回収しました。
その後、今日の宿屋「つり屋」に向かい1日目の終了としました。


【2日目】

今日は、上島の主なポイントを回る予定です。

佐護川の中流域の景観
ここのカメラにはヤマネコが良く映ります

まず最初に訪れたのは、佐護川です。
この川は、1年中水量に恵まれ、大きな淵などもある昔からカワウソの目撃例もあるカワウソが生息するには絶好のロケーションです。

佐護川の形が変わっていっています

しかし、数年前から始まった護岸工事が大規模に行われており、重機やダンプカーが往来していました。そのためカワウソどころかヤマネコもテンもトレイルカメラに映らなくなってしまいました。ここの佐護の方たちには川の氾濫を防ぐ念願の改修ですが動物たちにとっては生活の場が荒らされ今後の生態系への影響が気になります。

井口浜
井口浜は、何度かカワウソの足跡が見つかっています

その後、井口浜に移動して痕跡調査をしましたが動物自体の痕跡がありませんでした。この近くに仕掛けたトレイルカメラには犬が複数写っておりカワウソやヤマネコへの野犬の影響も心配です。

やや遅い昼食を、いつもの佐須奈のそば道場の対州そばをいただき、今回の行程を締めくくりました。なお、このそば道場のメニューが一新され、楽しみにしていた「そばがき」が無くなっていたのが残念でした。ただ、対馬名物の「穴子」の天ぷらが追加されていました。

そば道場の新メニュー
手前は天ざるそばと穴子天

2日間の短い調査でしたが、カワウソの確かな痕跡が発見でき大変充実した調査となりました。しかし、足跡以外の痕跡がなく科学的な同定ができていません。
今後は、この島中心にカワウソが確実に活動しているのかを調査していきたいと考えています。

ご拝読ありがとうございました。

対馬空港は丘陵地にあるため夕焼けが美しい

【後日…】

型取りした石膏(左前脚の石膏型、横幅60mm)
型取りした石膏(縦幅80mm)
型取りした石膏(当日の砂質と足跡の深さから体重は6~7㎏か)

各指球がはっきりと浮き出ていているのに爪の痕跡が小さく、やはりテンの足跡でなくカワウソの足跡と判断していいと考えます。
カワウソとしては大きな足跡ではありませんが、メスの個体であれば標準的な大きさでしょう。

回収したトレイルカメラ映像